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昴という女(小説)


     
   昴 と い う 女( 小 説 )

   髪をカーリヘアーにしていた女が微笑んだ。
   女の言葉には熟成された優雅さがあった。

   純な無心な響きがこもっている。
   やや方言交じりではあるが、声色は女そのものの
   かぐわしき優しさにあふれていた。
   男は、その女のそばにいるだけで心が和んだ。

   悪徳な利己的な野郎どもと出世と名誉だけを考えて
   毎日を過ごしているような仕事から解放されるのは
   この女といる時だけであった。

   この女にだけ豊かな表現力と素直で男心をそそる物腰が
   備わっているのはなぜなんだろうか。

   どこから生まれてきたのだろうか。
   男はいつも女の前でそのことを考える時があった。

   男は、まだ解かれていない新品の煙草の封をきった。
   カッチというライターの音がして煙草に火がついた。
   男はいつものポーズで肺に送りこむことなく煙を吐きだした。

   女は男の一服が終わるまで微笑みかけていた。
   さわやかな女(やつ)だ。男は心の中でそう思った。

   12月半ばであった。
   外は冷気がたちこめて人は冬の衣装をまとって歩いているが、
   なぜか明るさを見ることもなくみな翳りのある表情をしていた。

   しかしこの女はどうであろうか。
   清清しい清新な色香を漂わせて男の前にいた。

   空色のスカートをはいて首には小さなペンダントをしていた
。  その襟足はきれいに梳かれ、髪はカール気味に掻き揚げ
   現代風のセンスでうまくその女の容姿を表現している。

   襟足のうぶ毛がきらりと光線にゆらいでいるのが
   はっきりわかった。

   色白の皮膚が艶やかに男を包んでいた。

   その魅力は女の顔にあった。
   外見的に見ると現代的な顔というのだろう。

   鼻は、やや高く少し上を向いている。
   眉は、円月を描き優しい弧の線をあらわし
   小さなホクロが口元にひとつあった。

   やや面長で、カールした髪はきれいに梳かれて光っている。
   やや細いやわらかい髪だ。
   手で掻き揚げると指の間から優しい感触で抜けていく。

   その感触が新たな感触をくすぐり、
   その指先は何度となく髪を撫であげた。


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